すり合わせが地域福祉の質を左右する

昨日は、組織の機能を考えることがケアの質に直結しているという話をしました。今回は、すり合わせによる組織の力について考えてみたいと思います。

戦前の日本の強みは組織の中のすり合わせにあったといいます。企業の中で職人が集まり工夫に工夫を重ね、とてつもなく優れた製品を生み出していました。戦後はこのすり合わせを市場との間でもやるようになり、高品質な製品を数多く生産することができるようになりました。現在でも日本のものづくりの実力は世界一であると言われています。

福祉分野においても現場ですり合わせができる組織は強い組織です。利用者を市場というのはやや語弊がありますが、本質は同じで、現代の強い福祉組織は、利用者とのすり合わせができる組織です。

地域福祉とは、組織の中だけではなく、その施設が存在しているまわりの地域とすり合わせを行って提供するケアを決定する福祉と定義すべきなのかもしれません。上記のように地域福祉を定義するとこれまでの地域福祉が全く違ってきます。
形の上で入所施設のまわりにケアホームやグループホームが配置されていても、その施設が存在している地域(=市場)とのすり合わせができていなければ、地域福祉とはいえないことになります。逆に、形の上では旧法の入所施設であっても、地域とのすり合わせによって利用者の生活が成り立っている施設は地域福祉施設となります。

すり合わせは目の前の問題を共有することが大前提になります。利用者の問題解決について、職員間で行動を共有するときに得る知識や経験は、どうしても感覚に近いものがあり、なかなか数値では言い表すことができません。問題を扱う際の笑顔とか、声の調子とか、話すときの間合いとか、問題解決の際のコミュニケーションにも多くの情報が行き来するものだと思います。ましてや、対象の利用者や対象の利用者が生活している「場」にはそれぞれ固有の条件がありますから、「場」を共有しないものには解りえない伝統が存在するはずです。

してみると、強い組織とは、「場」にかかわる人たちの間で自由で闊達なすり合わせができる組織のことだと思います。最近はやりの福祉施設の経営論では、どうしてもリーダーシップが主要なテーマになりがちです。また昨日述べたように、技術論にも走りがちです。しかし、今日お話ししたように、地域福祉の実践では
1 場を構成する人たちをいかに増やしていくのか
2 構成する人たちの間のすり合わせをいかにうまく行うのか
3 共同の行動によって得た知識や体験をいかに蓄積・拡大するのか
といった、「場」の経営がより重要なのかもしれません。

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