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ゲーテの警告

適菜収の「ゲーテの警告 日本を滅ぼす『B層』の正体」(講談社)を読みました。小気味良い論評で、ゲーテの言葉を随所にちりばめ、日本の政治、経済、文化を根こそぎだめにしている元凶について鋭く説明しています。

B層は二流の意味。具体的には「民主党のマニフェストには騙された」といっているような権威・マスメディアを根拠もなく信じる人たちです。権威が大好きな一方で、権威をけなすのも大好きな人たちです。また理念やイデオロギーが大好きで、何かと「民主主義」を前面に出してきます。三権分立や官僚機構など、民主主義のリスクを回避するための人類の知恵を嫌います。集団の代表や役員を選ぶ時も理性的で知的な人を代表として送り、その人に「託す」事をしたがらず、くじ引きや順番制にしたがる傾向があります。

ゲーテは自由・平等・博愛を掲げたフランス革命については吐き気しか催さなかったそうです。ジャコバン派のロベスピエールが中心となってフランス革命は進みましたが、実態は野蛮で凄惨な恐怖政治。改革や革命好きの今の日本も怖いと思います。

内容については実際に読んでいただくとして、ひとこと。B層は手のわざがないからA層(一流の人)から与えられた理論、イデオロギーを信仰します。ゲーテは「理念をもっと少なくして、実践をもっと重んじなければならない」といったとか。障害者福祉についていえば、支援者としての手技をみがく事が現状の問題を解決する唯一の道です。そしてその手技(行動)は、実際に生活に寄り添ったものからしか受け継ぐ事ができません。地域福祉の理念や理論が先にあるわけではないのです。

暑い夏が続きますが、本書は一服の清涼剤となりました。

レジデンス日進の「協力金」の使い道について

レジデンス日進は完全個室でなる10人(ショートステイ用に予備室が7室ある)ユニットが4つ集まったユニットケアを行っています。各ユニットには食堂、居間、トイレ、風呂を備えています。桐材と腰壁にはふんだんに桐を使い、珪藻土を厚く塗った天井と壁、外断熱の役割を果たす煉瓦とあいまって冬暖かく、夏涼しい快適な空間となっています。それだけではなく、利用者や家族が全体が集まることができる食堂や地域の人々との交流を目的としたホールも備えています。仕事をする空間も居室とは別に施設内外に備えていて、職住分離ができている上に、職住が離れすぎてもいない便利な住まいとなっています。

各ユニットはそれぞれ完全に分離しているため、実質的にグループホームが4つ集まった集合グループホームといっていいと思います。日本でもおそらく屈指の快適さを誇ります。もちろんいろいろな問題点はありますが、通常の入所施設と比べ進んだ「住まい」だと思います。ただ、現状では人件費が多くかかることは否めません。運営は非常に厳しいものがあります。

2010年度の名東福祉会の決算報告書からレジデンス日進の数字を拾います。レジデンス日進の総収入は181,678千円。一方、総支出が179,089千円となっていて、一見黒字ですが、よくみると、利用者の家族から、運営協力金(寄付金)を12,254千円いただいています。寄付金を除く収入は169,424千円で、もし協力金をいただけなければ、年間9,665千円の赤字になっていたわけです。支出の内訳は、
1 人件費 132,629千円
2 事務費 18,883千円
3 事業費  26,564千円
4 利息支払 1,011千円
でした。人件費が74%! 一般企業ならとっくに倒産。社会福祉法人の施設でも50%~60%が適正ですから、レジデンス日進の人件費の高さは極めて問題といえます。ただ、通常の施設よりも人員が多いのはユニットケアだからです。職員は24時間体制で勤務しなければなりません。職員数は所長を含め42名配置されていて、管理職や社会保険も含めた人件費を単純に割り出すとひとりあたり3,157千円となります。安いです。直接処遇職員だけならばもっと安くなります。

これ以上人件費を安くすることは社会通念上問題がありますから、収入を増やすしかありません。支援費の収入を増やすためには、定員の増員しか手がありません。ただ、そうすれば個室ではなくなり、グループホームとはいえない、いまや解体を余儀なくされているただの入所施設になります。

協力金の使い道は赤字の解消と将来に備えた積立です。現在、文字通り利用者のご家族のご協力によって運営がなりたっているわけです。いただいた12,254千円のうち、9,665千円が赤字を埋めるために使用され、残り2,589千円が将来の修繕のため、施設に積み立てられています。

これまでの文章と数字を見て、懸命な方はお気づきだと思いますが、もしレジデンス日進がそのままグループホームであれば利用者は協力金ではなく「家賃」を払うことになります。そうなると協力金というようなあいまいな収入ではなく、契約に基づく家賃収入として計上されますから、なんら赤字ではなくなります。実際のところ、レジデンス日進はグループホームと変わりません。むしろ通常のグループホームよりも高機能な設備を持っている未来のグループホームです。また協力金を払わなければ、名東福祉会の他のグループホームとの格差も生じてしまいます。協力金には積極的に協力する姿勢が家族としては絶対に必要であると思います。(これは理事長としてではなく両者家族の立場からの発言ですが)

将来、レジデンス日進はグループホームに転換する予定です。その際は「協力金」の名称はなくなり普通の「家賃」になるはずです。それよりも、国は今すぐこのようにがんばっている「施設」に対して支援費単価を上げる事が必要だと思います。地域福祉の促進のためのインセンティブになると思うのですがいかがでしょうか。

参議院内閣委員会での障害者基本法に関する質問

平成23年7月28日、参議院内閣委員会で自由民主党の衛藤晟一氏が質問を行っています。
冒頭、あさみどりの島崎春樹先生(名古屋のある有名な福祉をやっている方とは島崎先生の事です)との対談が紹介され、障害者福祉が1981年の国際障害者年以来、「ともに生きる社会」を目指してきた事を指摘されています。

質問の趣旨は
1 これまで障害者問題は議員立法で法律を作ってきた(いいかえれば超党派で立法してきた)が今回は政府として法律が提出された。
2 社会資源が大幅に不足している状況の中でいきなり人権条約が出てきたのは違和感がある。
3 身体障害に重点が置かれすぎていて、知的障害、発達障害、精神障害については弱いのではないか。
という三点です。

人権を擁護する事は大切です。世界的な潮流でもあります。でも、現在の日本の障害者福祉は、重症心身の施設が極端に不足しますし、精神障害は福祉施設で受け入れる体制が極めて不十分なまま請け負わされています。さらに、発達障害の療育についてはまだ方法論が確立していません。そのような状況の中で、真摯に取り組んでいる福祉サービスの事業者に対して、人権侵害のチェックだけを厳しくしていく事は、福祉サービスの仕事をより困難にさせたり、新しいサービスを創造していく事にちゅうちょしたりするような効果があるように思えてなりません。人権が独り歩きしていけば、「とも生きる」事について潜在的に憶病になり、ひいては障害者と健常者がばらばらにされてしまうということにもつながりかねません。

もちろん「ともに暮らす社会」は簡単に実現できる理念ではありません。目を覆うような人権侵害の事例も後を絶たないという事もあります。考えてみれば、日本の政治は、平成に入って徹底的に「家族」や「地域」が壊されてきました。状況は難しいと思います。でも、障害者基本法は理念法。私たち日本人が日本人らしく「和(なごみ)」の世界で支えあう事ができるための法律は何かを議員の方々には議論していだたきたいと思う次第です。

ホームページの冒頭に、衛藤晟一氏の質問ビデオをアップしておきます。

決算報告

決算報告
2011年5月25日、141回理事会において、平成22年度名東福祉会決算が承認されました。

事業活動の収入は538,380,739円(前年度497,005,487円)となり8.3%増加しました。増加の要因は主に寄付金です。名東福祉会では平成23年度中のケアホームの建設を予定しており、この建設資金に対して35,000,000円の寄付がありました。各施設に対する寄付も含めた寄付金総額は60,143,300円(前年度22,736,600円)で264.5%の増加となりました。

昨年度は自立支援法の改訂があり、施設利用の自己負担分は29,736,720円(前年度36,092,733円)で17.6%減少しました。それを補う形で補助金が増加しましたが、寄付金を除く収入としては478,237,439円(前年度474,268,887円)で0.8%増の微増に留まりました。利用者の自己負担は主に給食費の負担分でした。
一方、事業活動支出は474,747,616円(前年度462,234,621円)で2.7%増加しています。

その結果、収支の差額は63,633,123円(前年度34,770,866円)となりました。建物の減価償却費があるため、寄付金を除く事業収支でみると3,489,823円(前年度12,034,266円)と繰越金は減少(71.0%減少)しています。

事業支出のうち最大の項目は人件費です。平成23年4月1日現在の常勤換算前の職員数は嘱託医を除き89名です。この職員で213名の障害がある方々の介護を行っています。平成23年度人件費は法人全体で336,960,042円(前年度325,699,394円)で3.5%の増加となっています。一人当たりの単純人件費は3,786,000円ですから、極めて低い水準にとどまっている事は否めません。

寄付金のうち、施設建設資金として寄付があった42,586,402円をケアホーム建設のための預金に積立ました。

今年は年度がわりのタイミングで3.11の大震災があり、多くの国民が被災されました。特に、高齢者の方や障害がある方の中で犠牲になられた方が多かったといいます。今後、名東福祉会としては、いつか起こる東南海地震に備え、建物の強化や備蓄、防災訓練など災害対策を強化する必要性が強く認識されました。理事会においても今後の災害の準備の必要性が指摘されました。

来年度は新体系への移行のタイムリミットを迎えます。利用者のニーズを分析し、より安定的でニーズに沿った質の高い運営ができる体制を目指し、効率的な経営を目指して事業を再編していく必要があると思います。

詳しい決算内容については事業報告書の形で会員の方に配布いたします。また事業報告書の印刷前であっても財務諸表の詳細をお求めの方は法人本部にお申し込みください。コピーを配布させていただきます。

戦略の見直し

3.11以降、「地域福祉戦略」を大幅に見直す必要が出てきたのではないかと思います。

一般に、戦略を考えるときには、国際要因、国内要因、時代精神の3つについて考えなければならない、といわれています。
国際的には原子力によるエネルギー政策がとん挫したため、今後、経済が停滞し、化石燃料が高騰し、輸送コストが上昇し食料品をはじめとするインフレが進むだろうと思います。国内的にみても、原子力発電による30%のエネルギーの代替方法に関する議論が始まったとはいえ、実際に効力を発揮するのはまだまだ先の話です。これから日本経済が復活するためには数多くの障壁を乗り越えていかなければなりません。

福祉は単独では産業として成り立ちません。物資はもちろんのこと、国内の様々なインフラの整備や移動手段、情報手段、輸送手段など経済活動の「余禄」があって初めて良質な福祉システムが実現できます。まずは日本の復興がなされなければ、障害者福祉の復興もあり得ません。

おそらく、多くの困難があっても私たちの国である日本は必ず復活すると思います。これまでも何度も何度も国難を乗り越えてきた民族であるからです。

問題は時代精神の変化です。
これまでわが国はの福祉は、「時代精神」として分散型のケアを目指してきました。介護の場が一か所に集中していれば何か悪いことをしているかのような雰囲気がありました。ケアの場所が単に分散していることを地域福祉と言い切る専門家もいたりしました。ところが、3.11によって分散型の福祉の脆弱さが明らかになってしまいます。今回亡くなられた方の大半があまり動けないお年寄りや障害がある方だった事は極めて重いと思います。
災害時の救出と避難生活の維持を考えれば、現実的な障害者福祉ケアの在り方としては
・施設を安全な場に設置する
・地震があってもびくともしない頑丈な建物を建てる
・災害に備えて十分な備蓄をする
という事が大切だと思います。支援者である職員の安全も確保しなければ誰がどのように救助するのかさえわからないという事が今回の震災で明らかになりました。
もともと安全と安心を確保することと地域福祉は対立する概念ではありません。「本人の意思を尊重した質の高い安心生活」こそが福祉の目指す方向なのだと思います。それを実現するための戦略を「地域福祉」とするならば、時代精神に合わせてその戦略そのものを見直し、より適切な標語に切り替えていくべきではないだろうかとさえ思います。

東南海地震の発生確率は今後30年の間に70%。しかも今回の震災でその発生確率は大きくなっているといいます。その備えこそ急務です。