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ボランティア

施設の経営を安定させ利用者の人たちの生活をより質の高いものにするためにはボランティアが必要となります。

・ボランティアひとりひとりの強みをよく知り
・ボランティアの強みに合わせた業務を企画し
・ボランティアが働けるよう施設の環境を整え
・ボランティアに対する指示を具体的で明確なものにし、
・ボランティア活動内容と成果を把握し、
・ボランティアのスキルアップを支援し、
・ボランティア間の連携を促進する

こうしたことがボランティアの振興には不可欠です。

ボランティアの行為に依存し、まかせっきりのボランティア活動では、ボランティアをするにしても、はりあいもありません。
ボランティアの働きの成果について、施設職員が詳細に知らないようでは情けがありません。
「無償でやっていただいているのだから、もっとやり方を変えてほしいけど言いにくい。」では失礼です。
ボランティアの方も施設に要望や意見をしっかり述べるべきです。
すべてが利用者の幸せにつながります。

ボランティアの方が清々しい気持ちで施設に協力することができるかどうかは、私たちの心がけ次第です。

施設プログラムの活動内容をうまく構成するには

チクセントミハイの「フロー体験入門」はとてもわかりやすくていいですね。
日常生活のなかで人生をより良いものにしていくために、心理学がどのように役立てるのかがテーマですから、私たちの施設のプログラムを構想する上でもたいへん有益です。ほんとうにありがたいです。

その中に、「毎日の活動における体験の質」を表にした物がありました。

幸福 モチベーション 集中 フロー
生産的活動  ー ーー ++ +

食事 ++ ++ ○ ー

レジャー活動
テレビ ++ ++ ー ー
趣味、スポーツ + ++ + ++

ーはネガティブ、つまり効果がない
+はポジティブ、つまり効果的
++は非常にポジティブ。
ーーは非常にネガティブ。
○はどちらでもないです。

実際はもうちょっと詳細に項目が列記してありますが抜粋させていただきました。

「生産的な活動」は幸福感とモチベーションがネガティブですが、「集中」と「フロー」をもたらしてくれます。
「食事」は幸福感とモチベーションについてはとてもポジティブですが、フローには関係がない。

次にレジャー活動です。
「テレビ」を見る事は、幸福でモチベーションも高いけれど、集中するわけでもないし、フローももたらさない。
「趣味やスポーツ」は幸福感、モチベーション、集中、フローともにポジティブです。

利用者の人たちにプログラムを「選択」してもらうと、次第にレジャー活動のウエイトが増えて行きます。これはポジティブ心理学が教えるところから見ても、おそらく本当だと思います。

今、福祉施設では、もっぱら、利用者が自らプログラムを選択できることを重視します。固い言葉で表現すると「自己権利擁護」なんていいます。大切なことですが、これはくせものでもあり、危険でもあります。使い方を誤ると、利用者のチャレンジや健康を阻害することもあるからです。

趣味の活動は幸福感をもたらしてくれるし、モチベーションも高く保てるし、ものによっては集中力も鍛えられるし、フローだって体験することができます。

でも、レジャー活動だけに生活を限定してしまうと、失う物が多いとチクセントミハイは警告しています。まあ、チクセントミハイにいわれなくてもそりゃそうだと思いますけど。

レジャー活動は、常に積極的に関わるものばかりではありません。例えばテレビを見るなどの受け身的なレジャーの場合は、集中もフローもありません。

受け身的レジャーの例としては
・好きな場所を見つけてたむろす
・日がなベンチに座って想いでにひたって過ごす
・好きなカフェで時間をつぶす
・好きな漫画や雑誌を読む
・テレビに向かう
などなど。

こうした活動は、幸福感をもたらしてくれるかもしれませんが、人生において交流する人を失い、目標も失いかねません。新しい知識、技能やチャレンジの機会など、失うものも多いと思います。

「ひとりでいて何もする事がないときに、人々はより多く病気の兆候を訴える」
というのが保健衛生の知見が教えるところでもあります。人生の質とかいうレベルだけではなく、健康そのものに影響がでてしまうというわけです。逆に、目標に集中すると、身体的健康さえ増進するそうです。

昔から、「楽あれば苦ある浮き世の習ひ」といいます。楽しているだけでは一般の生活者であれば破綻は免れません。度がすぎれば「依存症」とよばれてしまいます。

受動的レジャーに対して、積極的レジャーもあります。
・踊りやダンスを覚える
・太鼓を叩く
・歌を歌う
・絵や陶芸作品、木工品などの美術作品をつくる
こうしたものは幸福感やモチベーション、集中やフローも同時にもたらしてくれます。

ただ、積極的レジャーは最初はだれしもうまくできなくて「苦痛」であったりするから難しいです。へたをすると利用者に選択をしてもらえないかもしれません。まあ、本人にあった活動の場をセッティングし、難易度を調整して、本人の力となるようコーチングしながらスキルとチャレンジを高めていくしかないのですけどね。

こうして考えると、生活の質を高めるためには、生産活動や趣味の活動、食事や休息などいろいろなバランスを保つことが大切であることがわかります。

その上、それぞれの体験の質が問題です。
生産活動もできれば収入のためだけではなく、趣味に近づけるような活動であると幸せです。
趣味の活動も集中やフローをもたらすような、チャレンジ溢れる活動が望ましいと思います。

福祉施設の支援員は自己を律してかかる必要があります。
その上、利用者の人にとって未知の活動を提案しなければならないときは多くの場合挫折を繰り返します。
やっぱり支援員はたいへんな職業だなあと思います

ポジティブな施設について

利用者の良い人生をいかに実現するのかにいつも心がけ、気を配り、エネルギーを費やしている施設はいい施設だと思います。

利用者の「個別の支援計画」を考えることは絶対に必要な作業です。
利用者にも、職員にも、家族にも、日々の活動に満足と充足感が起こるよう、明確な目標が必要です。
利用者本人、職員、家族がそれぞれ協力し合って、利用者の強みを生かす個別計画を立案することが肝心です。
やはり利用者の個別支援計画を大切にする施設が良い施設です。

利用者だけではなく、職員ひとりひとりにも強みがあります。
職員一人一人の満足感や充足感も微妙に違いがあると思います。
職員のひとりひとりの強みを生かし、ひとりひとりの個別目標を大切にし、それを全体の活動に反映するよう努力できる施設が良い施設だと思います。

同じように、家族にもひとりひとり強みがあります。
名東福祉会は家族会や後援会がその強みを生かしてきた歴史があります。
ただ、家族の場合は愛情の強さ故に時として個々の目標がぶつかり合うことがあります。
それでも、なんとかそれぞれの個別目標をすり合わせて全体の目標とすることができる施設が良い施設だと思います。

さらに、地域の独特の強みがあります。
農村地帯、工業地帯、住宅街、商店街・・・いろいろな地域ごとに強みがあります。
その強みを生かしてこそ、良い施設です。

メンバーの強みを生かすわけですから、ポジティブな施設です。

もちろん、手間がかかりますしなかなかいい答えが見つからないかもしれません。
もたついた感じがしますから、策定に時間がかかり、リーダーシップの不足というご批判を受けるかもしれません。

それでも、矛盾を克服し、お互いが歩み寄って、それぞれの人生をより良いものにするにはどうしたらいいのかを常に考え、少しでも共通の目標を見つけ出して全体の目標に昇華しようと努力する施設が、
障害がある人の幸せを実現するためには、やっぱりいい施設なんだと思います。

そういう施設と法人に私たちは成りたいと思います。

作業プログラムでフローを体験する

ポジティブ心理学には「フロー」という概念があります。
フローとは直訳すれば流水のことですが、心理学のフローは誤解と偏見を恐れずに簡単にのべてしまうと、心頭滅却して何事かに取り組んでいる状態のことです。幸福な生活をしている人はこうした「流れる水に身を任せたごとく、何ものかに動かされてしまう」ような時間を持っています。

ポジティブ心理学によると、こうしたフローが起こるときは、
・具体的な目標がある
・瞬間ごとに正しい動きをしたかどうかがわかる
・行動能力(スキル)と活動の難易度のバランスがとれている
・スキルも難易度も、本人にとって高いレベルが要求される
という条件があるそうです。

施設には黙々と作業を続ける人がいます。私たちの法人がとりくんできた陶芸の作業では、何度も受賞している人がいます。
この人たちが陶芸作業に取り組んでいるときがまさに「フロー」の中にいるときといえます。

自分自身も、こうした「フロー」を経験します。自分は職業的にはプログラマーですが、体にスイッチが入って、ソフトを設計や工夫が必要なプログラムをやっているときは時間を忘れてしまいます。

人間誰しも、目標がないことをするのは苦痛です。
やっていることが正しいかどうかがわからないと不安です。
あまりに難しいことになると、すぐに休憩が必要になります。
あまりにも簡単な事になると、たいくつで、なかなか苦痛です。
もちろん仕事ですから、いやでもやらなければならないときも多いのですが。

フローの最中は、我を忘れていますから、幸せであるとか楽しいといった事は感じませんが、一定の目標を達成して一段落すると、実に清々しい気分になります。

施設の作業では、陶芸作業に関わらず、利用者の人たちが作業に黙々と取り組んでいるときは、利用者の方々は「フロー」の中にいるようです。

名東福祉会の昨年度の作業活動の売上で見ると、
天白ワークスは499万円の売上でした。多い方から集計すると、
クッキー作業が190万円
下請け作業が122万円
陶芸作業が40万円
お米の作業が28万円
でした。

メイトウ・ワークスは317万円。同じように多い方から集計すると
縫製作業が200万円
下請け作業が69万円
陶芸作業が28万円
でした。

確かに少ないです。陶芸作業はかっては名東福祉会の一番の作業でした。陶芸製品の売上が激減したのは100円ショップ等の影響だと思います。でも、売上を度外視すれば陶芸作業はとてもいい作業です。「フロー」が起こりやすい作業だと思います。

「これをつくる」という具体的な目標がはっきりしています。
土に何か加工するたびに土が形を変え、結果が良かったかどうかすぐにわかります。
作陶は焼くまでは何度でもやり直しができ、スキルを高めることができます。
作業をパーツに分けることができるので、利用者ごとに難易度とスキルを最適なものに計画できます。

フローを起こす条件が全て整っているのが陶芸作業です。

かって名東福祉会では名古屋市内の民生委員大会などから手作り植木鉢や湯のみなどの数千個の大量注文をいただき、活気に溢れていたときもありました。

もちろん、現在行われている縫製作業や下請け作業も同様です。売上の多寡はさておき、作業プログラムは利用者のフローを生み出すことができるため、とても価値のあるものだと思います。

私たち支援者の使命は、利用者の日々の生活を幸福なものにするため、

利用者のスキルとバランスのとれた作業活動を多数生み出し、
目標が明確になる形で利用者の作業環境を整え、
結果を常に最適な形でフィードバックし続けることで
利用者の生活時間の中にフローを生み出していく

ために、利用者が利用できる作業プログラムを企画から製品の販売まで含めて常に改善していくことが事が極めて重要だと思います。

施設活動は利用者も職員も「楽しいこと」を集める

●利用者の「強み」を集めると楽しい生活になる

利用者の「強み」を知る事がアセスメントの第一歩です。先にも書きましたが、「本人の希望している生活のありよう」に本人が持っている「強み」があると考えられます。

利用者の強みには「個人的な強み」と「生活環境の強み」があります。

●本人の強みの具体的な例

笑顔で人を和ませることができる
踊ったり歌ったりして人を楽しませることができる
介助など、手伝ってほしいときにはしっかりと意志を伝えることができる
好き嫌いなくよく食べて健康である
人には真似できない芸術的な作品をつくることができる
与えられた役割を必ず実行する
根気づよく作業を続けることができる
いつも人に感謝することができる
いつまでも疲れを知らない

利用者の日常について、職員同士で雑談をする時間は大切だと思います。
「今日のカラオケ大会で○○さんがめっちゃ盛り上がって・・・」
「今日、陶芸の作品が焼けたとき、○○さんが『これ持っていっていいぞ』って私にくれたんだわ。」
「ソフトボール大会でエラーしっちゃったとき、○○さんがなぐさめてくれてさあ」
こういう会話の中に、本人の強みがあります。

●利用者の希望が引き出される行動

利用者の希望が引き出されるようにするには、雑談も大切ですが、利用者とのかかわりが大切なのはいうまでもありません。

話を良く聴いてもらえる
楽しい事を利用者の仲間、職員、家族といっしょにやる
選択を尊重してもらえる
うまくできたことについて褒めてもらえる
成功を祝ってもらえる
目標を職員や他の利用者といっしょに考える
人の役に立つ活動を実行して自信がつく
いつもと違う選択肢が他にもみつかる

こうした事柄が、利用者の希望を引き出します。

反対に、本人のやる気を失わせることがらがあります。

・子どもあつかいされる
・大声で怒鳴られて怖い思いをする
・失敗したことやこだわっていることを厳しく非難される
・職員に失礼な態度をとられる
・ケースワーカーに約束したことが実行されない
・選択ができない

●施設の強みが利用者の強みを生かすことに結びついている

利用者の強みには「利用者が生活している環境の強みが」あります。利用者が生活している環境として、施設は今利用者に選ばれています。とすれば、私たちには環境の強みを増やすようにする責務があります。

利用者の強みを知っていて、
いつも利用者の強みをさらに生かしていくような目標設定を考え、
環境を常に改善している施設

は利用者の強みをさらに高めるように、新しい目標や新しい選択肢を提案することができます。施設の運営で、特に大切なのが利用者の強みを引き出すような資源や活動が施設活用のレパートリーに用意されていることです。

そして、利用者の「強み」を生かす活動を選び、実践することを中心に施設の「次の活動計画」を練り上げていく事が望ましいと思います。

具体的には
・利用者の今の強みを知るために努力を惜しまない。そのために、ケース会議を時間を見つけて頻繁に行っている
・利用者の新しい目標の実現に真剣に取り組むことを重要視している。そのために、利用者ごとにキーパーソンを配置している
・生活空間をより快適なものに改善する(利用者の意見を聴いて)
・利用者に合った作業を見つける努力をする

などなど、施設の活動が利用者の強みを大切にして組み立てている環境です。