施設活動は利用者も職員も「楽しいこと」を集める

●利用者の「強み」を集めると楽しい生活になる

利用者の「強み」を知る事がアセスメントの第一歩です。先にも書きましたが、「本人の希望している生活のありよう」に本人が持っている「強み」があると考えられます。

利用者の強みには「個人的な強み」と「生活環境の強み」があります。

●本人の強みの具体的な例

笑顔で人を和ませることができる
踊ったり歌ったりして人を楽しませることができる
介助など、手伝ってほしいときにはしっかりと意志を伝えることができる
好き嫌いなくよく食べて健康である
人には真似できない芸術的な作品をつくることができる
与えられた役割を必ず実行する
根気づよく作業を続けることができる
いつも人に感謝することができる
いつまでも疲れを知らない

利用者の日常について、職員同士で雑談をする時間は大切だと思います。
「今日のカラオケ大会で○○さんがめっちゃ盛り上がって・・・」
「今日、陶芸の作品が焼けたとき、○○さんが『これ持っていっていいぞ』って私にくれたんだわ。」
「ソフトボール大会でエラーしっちゃったとき、○○さんがなぐさめてくれてさあ」
こういう会話の中に、本人の強みがあります。

●利用者の希望が引き出される行動

利用者の希望が引き出されるようにするには、雑談も大切ですが、利用者とのかかわりが大切なのはいうまでもありません。

話を良く聴いてもらえる
楽しい事を利用者の仲間、職員、家族といっしょにやる
選択を尊重してもらえる
うまくできたことについて褒めてもらえる
成功を祝ってもらえる
目標を職員や他の利用者といっしょに考える
人の役に立つ活動を実行して自信がつく
いつもと違う選択肢が他にもみつかる

こうした事柄が、利用者の希望を引き出します。

反対に、本人のやる気を失わせることがらがあります。

・子どもあつかいされる
・大声で怒鳴られて怖い思いをする
・失敗したことやこだわっていることを厳しく非難される
・職員に失礼な態度をとられる
・ケースワーカーに約束したことが実行されない
・選択ができない

●施設の強みが利用者の強みを生かすことに結びついている

利用者の強みには「利用者が生活している環境の強みが」あります。利用者が生活している環境として、施設は今利用者に選ばれています。とすれば、私たちには環境の強みを増やすようにする責務があります。

利用者の強みを知っていて、
いつも利用者の強みをさらに生かしていくような目標設定を考え、
環境を常に改善している施設

は利用者の強みをさらに高めるように、新しい目標や新しい選択肢を提案することができます。施設の運営で、特に大切なのが利用者の強みを引き出すような資源や活動が施設活用のレパートリーに用意されていることです。

そして、利用者の「強み」を生かす活動を選び、実践することを中心に施設の「次の活動計画」を練り上げていく事が望ましいと思います。

具体的には
・利用者の今の強みを知るために努力を惜しまない。そのために、ケース会議を時間を見つけて頻繁に行っている
・利用者の新しい目標の実現に真剣に取り組むことを重要視している。そのために、利用者ごとにキーパーソンを配置している
・生活空間をより快適なものに改善する(利用者の意見を聴いて)
・利用者に合った作業を見つける努力をする

などなど、施設の活動が利用者の強みを大切にして組み立てている環境です。

本人の強み(ストレングス)に着目してケアプランを立てる

障害者のケアプランのアセスメントでは本人の「強み」や「ポジティブな特性」を見つけ出し、その強みを中心にしてケアプランを築き上げるように規定されています。

ネガティブな面に焦点をあててケアプランを立てると、どうしてもその人がもっている「強み」を見逃しまいやすくなります。これが障害者ケアプランの質を決定的に左右してしまいます。

チャールズ・A ・ラップが自身の精神障害者としての体験をもとに記述した「ストレングスモデル」に本人の強みをもとにアセスメントを行う歴史的背景、理論、アセスメントの実際の記述方法等、詳しく解説されています。

わが国の障害者アセスメントでは、これまで中心だった「医療モデル」にかわってストレングスモデルが正当な考え方になっています。医療モデルは問題や疾病の改善を中心としたケアプランです。

ケアプランのモデルでは、他に、「ブローカーモデル」というものがあります。障害者の生活相談を皮肉った表現です。これは社会資源を紹介するだけという不満を批判したものかもしれません。

ケアプランは高齢者で先行して導入されました。高齢者ケアにおいては当初、相談支援機関が相談支援機関と関連が深い施設(系列施設)を利用するように誘導してしまう傾向がまったくなかったとはいえません。実際に、厚生労働省の担当者は障害者ケアの相談支援においてはケアプランの策定については、高齢者ケアのようにはせず、本人の幸せの実現のために本人のまわりにいる誰にもできる仕組みを導入したかったと述べています。

「ストレングスモデル」は「医療モデル」や「ブローカーモデル」の反省の上に立っていて、厚生労働省の専門官たちの肝いりで導入されたチャレンジングなモデルだとも思います。

本人の個人的ストレングス
・願望 生活がうまくいっている人は、目標と夢がある
・能力 生活がうまくいっている人は、彼等の願望を達成するために、彼等の得意なことを用いている
・自信 生活がうまくいっている人は、目標にむかって次のステップに移る自信をもっている

本人が生活している環境のストレングス
・資源 生活がうまくいっている人は、目標を達成するために必要な資源にアクセスできる
・資源 生活がうまくいっている人は、少なくとも一人とは意味のある人間関係を構築している
・資源 生活がうまくいっている人は、目標達成のチャンスがある
・資源 生活がうまくいっている人は、目標達成に関する資源と人間関係が相互に響き合う機会に恵まれている

障害者ケアのアセスメントでは対象となる人を<部分に分けて>診断しないで、できるだけ<ホリスティック>に見ようとします。ホリスティック(全体的)というとちょっと宗教的なニュアンスが入ってきますが、もともと日本では人間を部分にわけて考えませんし、家族や郷土との結びつきも大切にしていますからむしろ日本的な考え方なのかもしれません。ホリスティックな見方を大切にするのは、人間は部分を集めてきたもの以上の存在であるという考え方が基本にあります。

・本人が大切にしている人やものや活動は何だろう
・本人が興味を持っていることは何だろう
・本人がやっていると楽しいと感じる事は何だろう
・本人が実現したいと願っている夢や目標は何だろう
・本人が得意としていること、才能、特技は何だろう
・本人が自信があることは何だろう
・本人の支援者は誰だろう
・支援者が本人といっしょにやると楽しめる活動は何だろう

ストレングスモデルでは肖像画のジグソーパズルを完成させるように、まっさらな台紙に、その人の生の生活のワンピースを貼付けていきます。最初は絵にならないかもしれませんがとにかくポジティブなところを記述していきます。施設の日常生活における記録も、利用者本人が楽しんで取り組んだことを記録していくべきだと思います。そうして集められたジグソーバズルのワンピースで本人の肖像画を組み上げていくと、本人がポジティブに生きて行くために必要なケアプランが見えてくると考えます。

「ストレングス」という言葉を聞いて、ポジティブ心理学を思い出される方は多いのではないでしょうか。ラップらはポジティブ心理学が開始されたといわれる1998年よりもっと前からストレングスモデルを提唱しているので、いわゆるポジティブ心理学学派とは直接関係があるわけではなさそうです。

でも、ラップの「ストレングスモデル」を読んでみるとポジティブ心理学を提唱してきたセグリマンやクリストファー・ピーターソンの論文も引用しているため、ポジティブ心理学と全く無関係とはいえません。むしろ、ストレングスに注目する事が本人の生活の質を高め人生において幸せを実現する近道であるという主張はまったくセリグマンらと同じ哲学を感じます。