福祉現場に生かせ、日本ものづくり思想

藤本隆宏氏は日本のもの造りが世界一であるのは、技にあるのではなく、その設計思想にあると主張した。設計思想はいわゆる「もの」にとどまらず、顧客にとっての付加価値をものに作りこみ、お客様を満足させる構想力や組織力であり、サービス業も含むという。組織に脈々と流れる「伝統」が日本のいい製品、いいサービス、いい仕事につながる。
なるほど、と思う。

昨今、福祉業界にも「キャリアパス」ということばが流行している。キャリアパスは個人の経歴のことだ。いろいろな福祉分野を渡り歩き、知識や技能を身につけ、キャリアを積み上げることによって福祉の技を磨き、自らを高める。そうしたキャリアを身につけた人が増えれば福祉サービスの質も増していくというというものだ。
その考え方は厚生労働省の「社会福祉法人の改革」でも持ち上げられたものだ。

だが、日本のものづくり思想からすれば、キャリアパスを求める風潮は、組織のサービス力を個人に還元してしまうもので、日本人がもっていたやさしさや慈しみの心、幸せになっていただくために身を尽くすという態度に水をかけることになるのではないか。

もちろん職員が資格をとる事を否定するものではないが、その前に組織としての「風土」を鍛え、質の高い福祉を目指す方がよほど日本の思想、ものづくり思想にあっている。

有資格者の配置に対する報酬の上積みなどの制度で資格取得に対するインセンティブをつけることは、キャリアパスを積み上げようとする風潮と結びつけば結局のところ組織をばらばらにしかねない。
組織がばらばらになれば、個々の組織が築いてきた福祉風土が弱くなりかねない。

福祉は組織力だと思う。協議会の仕事もそうした風土を地域ごとに強化、伝承していく作業に他ならない。
日本の伝統的なものづくり思想に立ち返り、障害者福祉を見直す時期が来ている。