障害者自立支援法によって地域の中にグループホームを設置したり、雇用型の就労継続支援の場を設けたりする活動に焦点があたっている。
確かに、システムを大きく変えていくときには、社会資源が必要となるためこうした議論が脚光を浴びるのは致し方ない。しかし、そうした議論のために施設解体論まで発展するとなると疑問が残る。
社会福祉施設スタッフの本来の業務は、利用者が生活しているとき、日常生活のなかで起こる問題を解決することだ。
生活者は誰でも大なり小なり問題を抱えている。そもそも問題とは本人が「こうありたい」と願う生活のありようと現実のギャップだ。理想と現実のギャップがあれば全部問題といえるなら、誰でも問題を持っているとなる。
障害がある場合には本人だけで問題を解決できない。あるいは、障害があるゆえに、社会との摩擦で問題が発生することもある。
私たちの使命は施設利用者の問題を解決するよう支援することだ。
問題があればそれを解決するべく一生懸命、動く。
社会資源の開発に動き回るのも大切だが、施設職員たるものは、生活者の問題解決の技術を競うことを忘れてはいけない。
■「日ごろの問題を解決します」でいく
障害者ケアプランに限らず、プラニングはすべてPlan→Do→Check→Action(Assessment)の構造を持つ。
複雑そうに見える障害者ケアプランの立案作業だが、個人の解決したい問題がはっきりできるかどうかが鍵だ。
「こうありたい」という「目標」を利用者本人と設定する。生活の問題を定義し解決のプランを立ててそのように動いていく。
生活の問題は多様であるため、解決のプランも多様となる。給食がまずくて食べられないということかもしれないし、大好きな職員が回ってこないという問題かもしれない。もう少し面白い作業を行いたいということかもしれないし、となりの利用者が夜うるさいという問題かもしれない。
ここで、医療現場で行われている方法を紹介しよう。医療現場では問題解決指向型のシステムがたくさんあるが、そのなかでもSOAPといわれる手法が注目を集めている。
各問題ごとに、主訴(S)、客観データ(O)、アセスメント(A)、プラン(P)を記述していく。
主訴と客観データは対で記録される。アセスメントは問題ごとに主訴と客観データを組み合わせて導き出す。そこまでできれば問題解決のプランは自然にできあがるものだ。
現在行われている障害者ケアマネジメント作業は、理論的にはイギリスのケアマネジメントを導入しただけあって立派なものだが、ややもすると現場の日常的な問題解決からは遠くなりがちになる。
「障害者ケアマネージャー」が施設外にいる場合にはよけいその傾向が強くなる。別に、障害者ケアマネジメント制度や研修システムに反対というわけではない。障害者ケアマネジメントは、障害者の日常生活から離れて存在できないといいたいだけだ。
私たちは問題解決のプロを目指すならば日常を司る人が生活者の問題をとらえ、問題解決プランを立案すべきだ。その方法は、驚くほど簡単で実践的になる。これから医療現場で洗練されてきた手法を導入すべきだと思う。
施設の技術は問題解決力だ。これまで、そうしたパワーで施設は支えられている。むしろ、こうした地道な施設の力を報告してこなかったところに、障害者自立支援法の設計上の問題があるのかもしれない。
■施設は最良の実践を評価し発信する場所
NHKの「難問解決ご近所の底力」という番組がある。特定の生活問題に対して、ベストプラクティスを選択して提示するというもの。
今、私たちのような障害者施設にもこうした「底力番組」による実践プロモーションが必要だと思う。
施設の悩み事を選んで問題として提示する。それに対して、「私のところではこうしました」というプログラムをプレゼンしてもらう。そして、自分たちでも実践できそうなプログラムを投票で選び、<実践>してプログラムを評価する。
施設はこれまでこうした実践報告のコンペを行っていない。実践発表すると施設の自慢話で終わってしまう。聞いているほうは「あれは軽度だからできた」とすぐに利用者の能力のせいにする。そんな実践発表ではなく、実践の知識を共有する報告会でありたい。
施設は不要な存在ではない。豊富な実践を集積ている。願わくば豊富な実践を公開し、より効果が高い実践に磨き上げるシステムをみんなで共有していきたい。施設はそうしたことができる連合体でもあると思う。