平成18年8月25日、厚生労働省からの最終回答ともいえる障害者自立支援法の調整案が発表された。いよいよこの10月からの経営内容が具体化してきた。
これまで単価が極端に低い障害者自立支援法に転換する施設はいないのではないかという観測があった。しかし、今回の発表で明らかになたのは旧法の施設は単価が80%になるということ。まさに背中に刀を突きつけられ、船から海に張り出した飛び込み板の上を前に進まなければいけない状態だ。いよいよ障害者自立支援法の事業に事業転換せざるを得ない状況になった。
社会福祉法人は生産性の向上に励む必要がある。それも、障害者自立支援法によって新しく生まれたスキームにしたがって生産性の向上を実現するよう、事業構造を改革しなければならない。
まず管理部門の構造改革。各施設ごとに配置されている管理職のあり方も障害者自立支援法に従って見直さなければならない。法人事務センターの機能を強化する必要がある。施設経営の透明性も高めなければならない。効率的な経営のためには効率的な管理が欠かせない。
次に職員教育。社会福祉法人の生産性を向上するためには、障害者福祉の専門技術を高めることが必要だ。若い人たちに知的障害者福祉の技術を磨くことを優先しなければならない。若い人を教育できないとモラルの低下を生み、サービスの質を下げ、事故を増やすことにつながる。
名東福祉会の現場は経験者が少なくなっている。知的障害者支援に有効なキャリアを積むことができる法人になる必要がある。
そしてもっとも重要なのが収益のアップ。やはり利用者に求められるサービスを展開することだ。それが収益の増加につながり、給料などのアップにもつながる。時間がないがそれをなんとかやりとげなければならない。
■改革の効果が大きい入所施設
もっとも改革の効果が大きいのは入所施設だ。入所施設を障害者地域生活促進センターに生まれ変わらせる。
私たちのように大規模な都市に位置する都市型の入所施設は多機能型の総合支援センターに生まれ変わっていく必要がある。
1 ショートステイを中心とする地域生活を送る上で起こる多様な危機を回避し回復するための機能
2 児童デイサービスを中心とする自閉や発達障害の治療センター機能
3 ケアホーム、グループホームの利用に向けた宿泊型自立訓練機能
4 職員キャリアを磨く研修センター機能
5 法人本部機能による法人経営の中枢機能
などこれからの入所施設に求められる機能はどれも敷居が高いものだ。しかし、障害者自立支援法の推進エンジンとしてみなされているのはむしろ旧法の入所施設。入所施設を変えていかなければ自立支援法そのものが進んでいかない。
地域生活への移行を考えるためには、日常生活の自立訓練を行う場も同時に必要となる。これが宿泊型の自立訓練施設だ。また、実際に入所施設から出て家庭に戻るケースは稀である。そのため、入所施設退所後のケアホーム、グループホームが必要となってくる。
こうした機能を備えた施設に変貌することによって、職員もキャリアを磨くことができるようになる。
■通所施設
既存の通所施設はどうか。障害者自律支援法は私たち社会福祉法人の現場にとってたいへん厳しい法律である。特に授産施設が厳しい。
障害者の雇用はこれから格段に進む。ハードウェアの規制がなくなれば、NPOなどによる就労支援グループが続々と生まれてくる。これからは養護学校や特殊学級を卒業した人は施設だけが選択肢ではなくなる。旧来の授産施設は経営的に極めて厳しい状況となっている。
今度の障害者自律支援法では日中活動では4つのタイプが描かれている。
1 就職をめざして活動するグループ(就労移行支援)
2 就職したも同然の仕事ぶりで、支援者といっしょにバリバリ働いて給料をもらうグループ(A型就労継続支援)
3 3000円程度の工賃で働くグループ(B型就労継続支援)
4 介護を求める人たちのための生活介護を受けるグループ
これからはA型就労継続支援が現実的な選択となる。B型は衰退していくだろう。A型を目指すといっても、名東福祉会の場合、年々授産工賃は低下している。家族会の授産科目や工賃に対する期待も大きくはない。そうした意識を改革していかないと通所施設としての魅力が将来なくなっていく。
一方、就労ではなく生活介護を求める人もいる。名東福祉会の利用者は圧倒的にそうした人たちが多い。
ただ、生活介護のありようや質の高い支援についていまだに明確にはなっていない。行動分析的な手法によってQOLを高める技術をみがく必要がある。
■アセスメントと個別支援計画
障害者自律支援法では利用者グループの構成が非常に重要となってくる。結局、人間はひとりでは生きていけないし、よく生きるためにはこころが通うグループが必要だ。
ところがこれまではすべてが施設単位だった。なかなか施設という枠組みを超えたグループをつくるという発想が生まれにくい。
だが、そうしなければ効率が悪い。施設ごとにA型、B型、就労移行支援というグループをつくってそれぞれ活動するなど無理だし、成果もあげにくい。これからは複数の施設に所属している利用者が、その個別のニーズに従って目的別のグループを選べるようにしなければならなくなる。複数の小規模施設が連携してひとつの事業を構成する場合も考えられる。企業とタイアップして特例子会社と連携することも考えなければならない。発想がこれまでとはまったく異なるのだ。
これまでの社会福祉は一法人一施設が原則で、どこにも施設長、事務員が置かれ、法人が違っても等質の施設経営が求められた。まさに全国津々浦々「金太郎飴施設」だった。これからは多様な個性を持った事業所が競い合うことになる。施設単位の経営はできない。法人単位あるいは法人間連携で福祉サービス事業を展開していかなければならない時代となる。
そこで重要となるのは「サービス調整会議」。これは地域ごとに法人を超えて会議が行われる。とても難しい課題となるが、名東福祉会はこの分野においても名古屋市名東区地域生活支援センターを中心に、個別ニーズに即した福祉サービスが提供できるようがんばっていきたいと考えている。